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岐阜地方裁判所 昭和41年(行ウ)3号 判決 1978年10月30日

岐阜県各務原市鵜沼七四六二番地

原告

中尾初二

右訴訟代理人弁護士

竹下重人

岐阜市加納水野町四の二二

被告

岐阜南税務署長 小林幸二

名古屋市中区三の丸三丁目三番二号

被告

名古屋国税局長 梅沢節男

右被告両名指定代理人

岸本隆男

市川朋生

山口三夫

後藤勝

梅田義雄

原田耕平

青敏博

藤塚清治

右当事者間の所得税決定処分等取消請求事件につき、当裁判所は、つぎのとおり判決する。

主文

一  本件訴えは、昭和五二年二月二四日の経過をもつて、訴えの取下ありたるものとみなされることにより終了した。

二  昭和五二年五月二六日付原告の準備手続期日指定申立以後の訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  原告は、本件につき昭和五二年五月二六日付で、準備手続期日の指定を求めるむねを申し立てた(なお、同申立書には口頭弁論期日指定申立とあるが、準備手続期日指定申立の趣旨と解する。)。その理由は、本件は昭和四一年一一月二一日第一回口頭弁論期日が開かれ、即日準備手続に付され、その後準備手続を重ねて来たが、昭和五一年一〇月二六日午前一〇時の第二一回準備手続期日に原告が出頭しなかつたところ、原告は、準備手続をなす裁判官の指定した次回期日である同年一一月二四日午後一時三〇分の期日の告知を受けていないから、ここに本件準備手続期日の指定を求めるというのであり、立証として、甲第一号証の一、二、第二号証(以上いずれも写し)を提出し、原告本人尋問の結果(第一、二回。)を援用した。

第二  被告らは、主文第一項同旨の判決を求め、本件は、昭和五一年一〇月二六日午前一〇時第二一回準備手続期日に、被告指定代理人五名は出頭したが、原告が不出頭だつたため、弁論をなさずに退室したところ、原告が同日後刻出頭して、即日同日付けをもつて期日指定の申立てを行ない、裁判所書記官早野五善が同日原告に対し口頭をもつて、すでに準備手続をなす裁判官により指定されていた次回期日である昭和五一年一一月二四日午後一時三〇分の期日を告知した。しかるに、右次回準備手続期日である昭和五一年一一月二四日午後一時三〇分には、被告指定代理人四名が出頭したが、原告が出頭しなかつたため、被告指定代理人らは右準備手続期日において弁論をなすことなく退室した。そしてその後当事者のいずれからも、期日指定の申立てがなされなかつたから、昭和五二年二月二四日が経過したことによつて、民事訴訟法二三八条、二五六条に規定する期日指定申立期間である三か月が満了し、右規定に基づく訴えの擬制取下げの効果が発生するに至つた。ゆえに、これにより、本訴は終了したというべきであるから、訴訟終了の宣言判決を求めると述べ、立証として、証人早野五善の証言(第一、二回。)を援用し、甲第一号証の一、二の原本の存在と成立は認めるが、第二号証の原本の存在とその成立は不知と述べた。

理由

本訴請求の趣旨及び請求原因の要旨は、原告提出の別紙訴状、昭和四二年一月六日付準備書面一、二項、同年七月一〇日付準備書面一項各記載のとおりである。

本件記録、原本の存在とその成立に争いのない甲第一号証の一、二、証人早野五善の証言(第一、二回)及び原告本人尋問の結果(第一、二回、ただし、原告本人尋問の結果中、後記信用しない部分を除く。)を合わせ考えると、以下の事実が認められる。

本件訴訟は、昭和四一年一〇月二二日提起され、同年一一月二一日第一回口頭弁論期日が開かれ、訴状及び答弁書が各陳述された上、即日準備手続に付され、同年一二月二六日第一回準備手続期日が開かれ、それ以来、準備手続が進められてきたが、昭和四六年五月三一日の第一九回準備手続期日において、双方代理人からの、当庁に係属する原告を被告人とする所得税法違反被告事件の進行待ちを理由とする延期申請により、次回期日が追つて指定とされ、その後昭和五一年八月一七日に第二〇回準備手続期日が開かれ、原告不出頭、被告指定代理人六名が出頭したが、何ら弁論をなさずして退室した(なお、昭和五〇年一二月一五日付で原告訴訟代理人が辞任したため、昭和五一年当時原告には訴訟代理人は存しなかつた。)。その後原告から同年九月一日受付の期日指定の申立がなされたので、準備手続をなす栽判官(以下担当栽判官という。)は同月二日本件準備手続期日を同年一〇月二六日午前一〇時に指定告知し、原告及び被告指定代理人双方からその頃右期日の請書が提出された。同年一〇月二六日午前一〇時の本件第二一回準備手続期日には、原告が出頭せず、被告指定代理人五名が出頭したが、同日午前一〇時三〇分ころ弁論をなさずして退室したので、右期日はいわゆる休止となされた。原告は、右同日午後に開かれる前記刑事事件の公判に出廷するなどのため、同日午前一〇時過ぎ頃自宅を出発したが、本件準備手続期日に出頭せず、午前中に当庁付近の保健所のほか、岐阜簡易裁判所書記官室に同裁判所係属中の事件のことで立ち寄り、ついで、昼食を取つた後、前記刑事事件開廷時(同日午後一時一〇分)前である同日午後〇時五五分頃岐阜地方裁判所三階の民事部書記官室に本件訴訟の進行状況を尋ねるために出頭し、同書記官室内の本件準備手続担当者である主任書記官早野五善(以下早野書記官という。)の席近くにおいて、同書記官に対し、当日の期日の結果如何を尋ねたのに対し、同書記官から本件訴訟は原告不出頭のため休止になつたむねを告げられたので、直ちに同書記官に対し、本件訴訟につき期日指定の申立をなすむねを申し立て、早野書記官の提供した無地の用紙に期日指定申立文言を記載し始め、その間、早野書記官が担当裁判官の指示のあつた数期日を即時口頭で原告へ、また電話で被告代理人へそれぞれ連絡して、その希望期日を照会聴取した上、即時その場で原告に対し口頭をもつて、担当栽判官の指定した次回期日「昭和五一年一一月二四日午後一時三〇分」を告知し、さらに、直ちに右期日の請書を作成して提出するように求め、栽判所所定の請書の用紙を渡そうとしたところ、原告は、前記期日指定申立書の余白に期日請書を書くから要らないと答え、表面に「期日指定の申立」と題し、期日指定の申立をするむね及び日付を昭和五一年一〇月二六日と記載して原告の氏名を自署し終えていた前記書面の裏面にさらに「請書」と題し、「期日指定書一通右正にお請けしました。昭和五一年 月 日 中尾初二 岐阜地方裁判所御中」と記載し、なお、当日印鑑を持参していなかつたため、表面の原告名下にのみ拇印を押し、裏面の請書には押印拇印をすることなく同書記官に提出したのに対し、同書記官から、右「請書」には具体的な日付の記載を欠き押印もなされていなかつたため、これでは期日請書にはならないと注意されたが、印鑑を二、三日後に必らず持つて来ると答えて右書面をそのまま同書記官に提出し、同日午後一時少し過ぎに前記書記官室を退室し、同日午後一時一〇分頃に前記刑事事件の審理のため当庁刑事部法廷へ出頭した。早野書記官は、事務官に指示して右書面に裁判所の同日付受付印を押なつさせ、同日中に本件第二一回準備手続調書を作成し、右請書裏面に次回期日指定欄を設け、担当裁判官の期日指定印を受けた上、右期日を即日原告に口頭告知したむねの記載をなし、「裁判所書記官」のゴム印及び同書記官の認印を押なつし、その翌日の一〇月二七日に担当裁判官から右調書の認印を受けた。しかるところ、次回期日である同年一一月二四日午後一時三〇分には、原告が不出頭で、被告指定代理人四名が出頭し、同代理人らにおいて何らの弁論をなさずして退室した。しかして、本件については、その後三か月の期間内に当事者双方のいずれからも、準備手続期日の指定の申立がなされなかつた。

以上の事実を認定することができ、右認定に反する原告本人の供述部分は、前掲各証拠と対比して、容易に信用しがたい。

以上の事実によれば、本件訴訟は、民事訴訟法二五六条、二三八条の規定により、昭和五二年二月二四日の経過により、訴の取下があつたものとみなされたといわなければならない。

もつとも、本件においては、前段認定の如く、昭和五一年一〇月二六日第二一回準備手続期日終了後、同日後刻出頭した原告に対し、担当書記官において、口頭をもつて、次回期日の告知がなされ、かつ、原告提出の請書には、指定告知された次回期日の記載もないので、呼出の方式の適否につき疑義がないではないから、この点について判断する。

民事訴訟法一五四条は、期日における呼出は呼出状を送達して行なうことを原則とするが、当該事件につき出頭した者に対しては期日の告知をもつて足りるものと規定する。そして、ここにいう当該事件につき出頭した者とは、期日に法廷に出頭する場合が典型的なものであるほか、当該事件の記録閲覧、当該事件に関する書類の提出、費用の予納等のために裁判所へ出頭する場合も含まれるとされているのであるから、前回期日に不出頭の者に対する期日の呼出は、その者が当該事件の関係で裁判所へ出頭してきた場合には、裁判所書記官がその者に対し期日の呼出として明確に認識できる方法と状況の下で、次回期日を口頭で告知すれば右期日の呼出は適法になされたものということができる。本件においては、前段認定の如く、期日の指定告知は、前同日午後一時頃岐阜地方裁判所三階民事部書記官室内の本件準備手続担当者である早野書記官の席において、同書記官により、当該事件の期日指定の申立のために出頭した原告本人に対し、確実明確に告知されたのであるから、右期日の指定告知は民事訴訟法一五四条但書により同時に原告に対する期日の呼出の効果を生じたものといわなければならない。かような場合、実務上いわゆる期日請書を徴するのが一般であるが、それは後日生ずるやも知れぬ紛争を避けるための一つの証拠方法確保の手段にすぎず、これが不完全ないしは存しないからといつて、前説示の期日の呼出が違法無効となるものではない。してみると、本件訴訟は、結局昭和五一年一一月二四日午後一時三〇分の第二二回準備手続期日において原告不出頭のためいわゆる休止となり、昭和五二年二月二四日の経過により訴の取下とみなされることにより終了したものといわざるを得ない。

よつて、本件については、右訴取下とみなされたことにより終了したむねの宣言をすることとし、前記期日指定申立以後に生じた訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長 裁判官 菅本宣太郎 裁判官 三宅俊一郎 裁判官 水谷正俊)

訴状

岐阜県各務原市鵜沼七四六二

原告 中尾初二

大阪市北区堂島浜通一丁目八四

右訴訟代理人弁護士 日下基

岐阜市加納水野四の二二

被告 岐阜南税務署長

渡辺栄

名古屋市中区南外堀町六の一

被告 名古屋国税局長

坂野常和

所得税決定処分等取消の訴

請求の趣旨

一 被告名古屋国税局長が昭和四一年八月二三日原告に対してなしたる

(一) 昭和三十年分所得税決定処分に対する審査請求棄却

(二) 昭和三十一年分所得税決定処分に対する審査請求棄却

(三) 昭和三十四年分所得税及び無申告加算税の再更正処分に対する審査請求棄却

(四) 昭和三十五年分所得税及無申告加算税の更正処分に対する審査請求棄却

(五) 昭和三十六年分所得税の更正処分に対する審査請求棄却は之を取消し

一 被告岐阜南税務署長が被告に対してなしたる

(一) 昭和三十年分所得税決定処分

(二) 昭和三十一年分所得税決定処分

(三) 昭和三十四年分所得税及無申告加算税の再更正処分

(四) 昭和三十五年分所得税及無申告加算税の更正処分

は之を取消す。

訴訟費用は被告等の負担とする。

請求の原因

壱 原告は被告岐阜南税務署長より

(一) 昭和三十年分所得税の決定額として金一二、五二六、九七四円なる旨の

(二) 昭和三十一年分所得税の決定額として金五八、八二九、二六六円なる旨

(三) 昭和三十四年分所得税及び無申告加算税の再更正処分

(四) 昭和三十五年分所得税及無申告加算税の更正処分

(五) 昭和三十六年分所得税の更正処分

を夫々当該年度に受けた

弐 然れど何れも其処分に記載されたような所得をなしたような覚がなく仮りに多少は所得があつたとしても申告して課税を受けるような対象額に達しなかつたので申告手続に及ばなかつた。

然るところ被告は如何なる資料に基づく証拠及計数に依拠するものか請求趣旨記載の所得額決定をなし、又或ものについては原告の異議に基づいて無申告加算税更正決定を夫々決定して来た。

参 之を不満とした原告は右処分に対し適法なる異議及審査請求をなしたところ

右(一)については名古屋国税局長坂野常和より昭和四十一年八月二十三日付を以つて「審査の請求を棄却します」

(二)については同局同氏より同日「審査の請求を棄却します」

(三)については同日名古屋国税局長から「請求人の請求を棄却する」

(四) については同日右(三)と同様

(五)については同日右同様

の各裁決を下し、何れも名古屋国税局から其の旨の通達を同年九月二日受領した。

四 然れど岐阜南税務署が決定した処分は同税務署が予断を持つて、原告には無関係な資料、又は結局未収入となつた利息、欠損となつた営業収益、其他他人の収得をも原告の仮空名義使用に依るもの又は実質的原告の収得等認定権力の専恣なる乱用、若くは悪用に基づいてなしたものであるのに被告名古屋国税局は十分な調査もなく抽象的文字を以つて原処分に誤りはないとし極めて形式的に型の如く審査請求棄却の栽決を下したのであつて原告は到底之に承服することは出来ない。

五 依つて右処分及之を維持した裁決の不当なる所以を明にする為め行政事件訴訟法第一一条第一項に依り処分をした税務署長及び栽決をした名古屋国税局長の両者を被告とし、且つ同法第一二条第三項に依り当該処分のあつた下級行政機関たる岐阜税務署の所在地たる岐阜市を管轄とせられる御庁に本訴を提起する次第である。

証拠方法

弁論に於て遂次提出する

添付書類

(委任状 壱通)

昭和四十一年十月二十日

右原告代理人弁護士 日下基

岐阜地方裁判所 御中

次回二月六日

昭和四一年(行ウ)第三号

準備書面

原告 中尾初二

被告 名古屋国税局

右当事者間の所得税決定取消等請求事件について原告は次の様に弁論の準備を為す

昭和四十二年一月六日

右原告代理人弁護士 日下基

岐阜地方裁判所民事部 御中

壱 被告から示摘された訴状の誤に就いて答える。

訴状請求原因壱(二)の金五八、八二九、二六六円は金六八、八二九、二六六円

同(四)の再更正処分は更正処分

が正しいのでその様に訂正する。

又被告岐阜南税務署長から受けた各年分の所得税決定処分は各年分と記載されてあつて、各年度分とはなつていない。従つて一応決定処分通りに記載して置く。

弐 請求の趣旨に於いて審査請求を棄却した裁決の取消と処分の取消を併せて求めているが、決して裁決の取消において、処分の違法を理由として取消を求めているものではない。

(原決定処分の取消を求めるには、その処分を是認した各裁決の取消を求めねばならぬと考えたことに依る)

請求趣旨掲記の各裁決の取消を求める原因左の如し

(一) 行政不服審査法第四一条第一項に依ると、裁決には理由を附さなければならぬことになつている。而して法律の要求ある理由とは、訴訟資料の事実上及法律上の価値判断で事実を確定し、主文に到達した経路を明かにすべきことを謂うのである。然るに各裁決は理由として

あなたの事業料理旅館業、金融業の経営規模、取引の実際、配当所得の源泉につき諸種の資料証拠によつて岐阜南税務署が行つた決定額〇〇〇〇〇円の算出については何等の誤りも認められません云云

とある丈で、決定(主文)の出た事実上、法律上の価値判断的経路に至つては毫も説明なく、経営規模がどうなのだからどうなるのか、取引の実際がどうなのだからどう判断されるのか。配当所得源泉がどうなっているか。どう認定するのか等の点につき何の記載もなく、裁決として本来夫に到達する迄に要求せられる論理の経過は全く伺い知ることは出来ない。宛も「夫で良いと思うから間違ない」と謂うに均しい。是では不服審査法が要求している「国民の権利利益の救済を図り、行政の適正な運営を確保」せんとする法の趣旨は完全に裏切られていることになる。

(二) 又法第四一条第二項に依ると、裁決書には再審査請求をすることが出来る旨並びに再審査庁及再審査請求期間を記載して之を教示しなければならぬとなつているのに、何れの裁決に於いても之等の教示が皆欠如している。

参 求釈明書第二項に「原告は、請求の趣旨第三項(二)において、昭和三一年度分所得税決定処分の取消を求めているが、右年度分についてはさらに………更正処分が………なされておるのであるが、本項の請求の請求をそのまゝ維持されるのか」とあるが、右の請求の趣旨第三項(二)とあるのは第二項の誤りではないか、又昭和三一年度分所得税決定処分とは申していない。昭和四一年八月二三日付名古屋国税局長坂野常和の審査決定通知には「昭和三一年分所得税決定処分」とあり、原告は夫を根拠にして之により右主張をなしたが、更正処分のあつたことは目下照会中につき、追而陳述する。

四 貼用印紙額について

(一) 本訴は裁決及処分の取消を求めるものであつて、何れも行政行為なる抽象的法律行為自体の価値判断を求める形成訴訟であつて、財産権の存否又はその額に関する請求を為しているものではないから、民事訴訟用印紙法第三条の適用あるものと解する(夫にしても請求の数丈積算していないから其の分は増貼する)。

(二) 或は白はく、同法第三条第二項民訴第二二条に依り訴額は訴を以つて主張する利益に依り算定すべしと論ずるならんし、民訴第二二条第一項は(イ)裁判管轄が訴訟の目的物の価格に依りて定まる時の規定であつて、本件の場合の様に裁判管轄が頭から法定(行政事件訴訟法第一二条第一項、裁判所法第二四条)されている場合には訴で主張する利益の如何には関係ないと解する。

以上

次回七月二〇日

昭和四一年(行ウ)第三号

第弐準備書面

原告 中尾初二

被告 国

右当事者間の所得税決定処分取消等請求事件について原告は次の様に弁論の準備を為す。

昭和四二年七月十日

右原告代理人弁護士 日下基

岐阜地方裁判所民事部 御中

壱 原告が取消を求める各年度の税額は

(一)昭和三十年分 金七、四六一、九八五円也

(二)昭和三十一年分 金六八、八二九、二六六円也

(三)昭和三十四年分 金六三、七四五、三五〇円也

(四)昭和三十五年分 金七、八五五、七五〇円也

(五)昭和三十六年分 金二、二九三、五五〇円也

である(右の数字は後日訂正されるかも知れぬ、其理由は決定裁決書に数字が上げてないから)

弐 次に報告の第壱準備書面について求釈明するが

(一) 其の第一項(1)(原告の営業内容)の項について、

原告は其年度其主張場所で金融業を営んでいないし又有価証券売買業も経営していない。因に有価証券売買業とは証券業者とは異るのか。

証券取引法(昭和二三年法第二五号)には株式の売買を業とする者は証券業者と指称すべし之を誤認さすような文字を使用してはならぬ(同法第四一条の二)となつている。仍つて右法律に該当しないものならば、其主張名称に依る実質的内容を明確にして貰い度い(猶之について後述参照)。

(二) 2(決定および賦課決定)について、

原告は被告主張年度、確定申告書を岐阜南税務署長宛に提出する義務がある旨主張されるが、原告が肩書地に移転したのは、昭和三二年四月十五日であるから斯る義務は夫以前に存しない(所得税法第一五条及第一六条乃至二〇条、国税通則法第三〇~三三条)。

仍つて岐阜南税務署長の処分は無権限の職権乱用行為である。

又昭和三一年分について再更正を為したとあるが、かゝる更正のあつたことについて何等の通知にも接していない。

(三) 原告に対する岐阜地方検察庁の所得税法違反被告事件に於いて岐阜地方裁判所に対し検察官は昭和三四年十月二十二日起訴訂正書を以つて、原告は

昭和三十年度所得 金一〇、二〇〇、三九七円(所得税 金五、九四九、六九〇円)

昭和三十一年度所得 金七二、四九二、八六七円(所得税 金四六、四一五、三二〇円)

の所得を為したと訂正され、従つて之に対する税額も括弧内の数字に訂正すると主張されている事実を認められるか否か。

猶参考迄に触れるが、右刑事事件に於ける昭和三九年十一月七日付検察官鈴木芳朗の釈明書に

昭和三十年度の収入利息中には昭和二九年分所得年度の記載が混入した合計額であるから之を区別することは計算上不可能である。

と記載してある。之が事実とすれば昭和三十年度分の所得、従つて其税額は不確定である。その事は次年度以降の所得額、無申告加算額、重加算税に当然影響がある。(之等の諸点については同事件の弁護人日下基の昭和四一年七月九日付被告人中尾初二の答弁書―追加分第弐で詳述したところである旨付記する)

参 被告の第弐準備書面について

之は第一及び第二準備書面に関係あることではあるが、有価証券売買業を法の指定する証券業と解して求釈明する。

(一) 右業務は株式会社組織にして大蔵大臣の認可を要す(証券取引法第二八条)。而して其者には正規な事業所得税が課せられる。之と本件主張との異同を承り度い。

(二) 又前記起訴状に依ると原告(被告人)は「東京都港区芝西久保巴町十一番地で吉村東照等の名義で有価証券売買業を営んだ」とあるが其事業と被告の本件準備書面記載の営業事実との異同を承り度い。

(三) 株式売買の差益については昭和二八年所得税改正(之に依り差益には課税せず、其代り同年法律第一〇二号有価証券取引税法で源泉徴収義務を負わされている(同法第十一条)(猶所得税法第二条第一項21、同法第二七条同法施行令第六三条参照)新税を政府が創設することは憲法第三十条及第八四条違反である。仍つて被告が有価証券売買業なるものを新設して之に課税することは違憲である。

(四) 而も原告は業者ではない。業者たるに前記主務官庁の認可の外人的及物的諸施設が必要である。原告が夫等について如何なる用意及施設があつたとされるのか。

(五) 更に内容について謂えば、有価証券には株式以外に、国債、地方債、社債、日銀出資証券其他各種の貸付信託の受益証券がある。原告が之を如何に売買したのか。之等について売買価格を銘柄別に列記され度い。詰り取引の実態を明確にされ度い。(前記源泉徴収の点も考慮されつゝ。)

此の収益は莫大な弐億円未満の巨額に記載してある。若しそんなものを納税する義務がないならば、その点からしても本訴は理由ありとせられる。

(六) 其ノ他

(1) 昭和三四年度以降の金融業に依る所得額の計上がないが、原告としては夫でよいと思うが、其理由が知り度い。利息は債権発生主義で課税されるが、原告は多大の貸倒債権は有している。夫を認められたので所得なしとせられたのであろうか。

(2) 又原告は、係争年度に於いて鵜沼町で料理旅館業を営んで所得ありとせられたが、原告は同所に営業設備も人的組織も有して同業を営んでいない。若し実質を問題とされるならば名義人及商号は何んであるかを承り度い。

四 被告の主張は御庁に於ける原告を被告人とする刑事々件で詳細に争われていることで、其の方の記録を双方が取寄せて証拠とすれば極めて手間が省ける。併し同事件は検察官側の釈明準備の為め昭和三四年三月以来停滞している。弁護人側の求釈明(其の一部は本準備書面にも出ているが)に対する釈明がないので進行しない。

以上

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